東京地方裁判所 平成5年(特わ)1595号 判決 1994年2月25日
本店所在地
東京都葛飾区四つ木一丁目三五番三号
伸光ゴム工業株式会社
(右代表者代表取締役 髙田泰男)
本籍
東京都墨田区八広六丁目四一番地
住居
同区吾妻橋二丁目二番五号 吾妻橋相川マンション五〇二号室
会社役員
小川
昭和九年一一月一日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官渡邉清、弁護人山田宰各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人伸光ゴム工業株式会社を罰金六〇〇〇万円に、被告人小川を懲役二年に、各処する。
被告人小川に対し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人伸光ゴム工業株式会社(以下、「被告会社」という)は、東京都葛飾区四つ木一丁目三五番地三号に本店を置き、工業用ゴム製品の製造及び加工等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人小川(以下、「被告人小川」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括していたものであるが、(平成五年九月一五日代表取締役辞任)、被告人小川は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和六二年九月一日から同六三年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億二三〇四万九七二三円(別紙1修正損益計算書参照)であったのにかかわらず昭和六三年一〇月三一日、東京都葛飾区立石六丁目一番三号所轄葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第一一二二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額九二五七万九六〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ、
第二 昭和六三年九月一日から平成元年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三九一八万〇七〇七円(別紙2修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、平成元年一〇月三一日、前記葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第一一二二号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額九九三六万五二〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ、
第三 平成元年九月一日から平成二年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三一七二万四八五〇円(別紙3修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、平成二年一〇月三一日、前記葛飾税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が四〇九一万三五三七円で、納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第一一二二号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額九一六三万六一〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人小川の当公判廷における供述
一 第一回公判調書中の被告人小川の供述部分
一 被告人小川の検察官に対する平成五年四月一九日付け、同月二一日付け、同年六月三〇日付け及び同年七月一一日付け(二通、本文二丁のもの及び本文一四丁で「昭和六三年八月期」で始まるもの)各供述調書
一 松澤薫の検察官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、期首棚卸高調査書、仕入高調査書、期末棚卸高調査書、受取利息調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、事業税認定損調査書
一 検察事務官作成の各捜査報告書(二通、「受取利息の金額について」と題するもの及び「損金の額に算入した道府県民税利子割りについて」と題するもの)
一 大蔵事務官作成の領置てん末書
一 登記官作成の商業登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本
判示第一及び第二の各事実について
一 大蔵事務官作成の欠損金の当期控除額調査書
判示第二及び第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の外註加工費調査書及び支払利息調査書
判示第一の事実について
一 被告人小川の検察官に対する同年七月一一日付け供述調書(本文二七丁のもの)
一 飯野秀臣の検察官に対する同月八日付け供述調書(本文二五丁のもの)
一 石塚博行の検察官に対する供述調書
一 押収してある被告会社の昭和六三年八月期の法人税確定申告書一袋(平成五年押第一一二二号の1)
判示第二の事実について
一 被告人小川の検察官に対する平成五年七月一一日付け各供述調書(二通、本文一二丁のもの及び本文四丁のもの)
一 飯野秀臣の検察官に対する同月八日付け供述調書(本文一四丁のもの)
一 押収してある被告会社の平成元年八月期の法人税確定申告書一袋(前同号の2)
判示第三の事実について
一 被告人小川の検察官に対する平成五年七月一一日付け供述調書(本文一四丁のもので「平成二年八月期における」で始まるもの)
一 飯野秀臣の検察官に対する同月八日付けの供述調書(本文一二丁のもの)
一 大蔵事務官作成の旅費交通費調査書、消耗品費調査書、荷造包装費調査書、事務用消耗品費調査書、雑収入調査書、欠損金額調査書
一 検察事務官作成の捜査報告書(「売上高の金額について」と題するもの)
一 押収してある被告会社の平成二年八月期の法人税確定申告書一袋(前同号の3)
(法令の適用)
被告会社の判示の各事実は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状によりそれぞれ同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各罪について定めた罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金六〇〇〇万円に処し、被告人小川の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人小川を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、自動車用部品であるゴム製品の製造、加工等を目的とする被告会社が昭和六三年から平成二年にかけていわゆるバブル景気により受注を飛躍的に伸ばし多額の利益を得たにもかかわらず、売上高の除外並びに架空仕入及び架空経費の計上等の方法により、法人税を脱税したという事案である。脱税額は三年度分合計で約二億八〇〇〇万円近くにのぼり、ほ脱率も各年度とも一〇〇パーセントと高い。脱税の動機は将来景気が悪化した時に備えて蓄財をするためというものであって特段酌むべき点はない。脱税の態様も、被告人小川が会社の経理担当者に指示するなどして架空の仕入先を捏造したり関連会社を利用するなど計画的かつ巧妙なものである。そうすると本件犯行は、その脱脱額、ほ脱率、脱税動機、脱税態様等からして悪質であり、そうした脱税工作を率先指示して行わせた被告人小川の刑事責任は重いというべきである。
しかしながら、各年度分について修正申告がなされ、本税、延滞税、重加算税がすべて納付済みであること、本件を契機に二名の税理士を顧問とするなど経理体制の改善を図っていること、現在被告会社は景気の影響もあって厳しい経営状況下に置かれていること、被告人小川は本件発覚後犯行を全面的に自供し被告会社の代表取締役を辞任する等反省の態度が窺われること、これまでに前科もないこと、被告会社は被告人小川のいわゆるオーナー会社であり同人の存在が今なお会社経営にとって必要であることなど被告人らにとって酌むべき事情もあるので、これらの事情を総合考慮して主文のとおり量刑した。
よって主文のとおり判決する。
(求刑 被告会社・罰金八〇〇〇万円、被告人小川・懲役二年)
(裁判官 堀内満)
別紙1 修正損益計算書
<省略>
別紙2 修正損益計算書
<省略>
別紙3 修正損益計算書
<省略>
別紙4 ほ脱税額計算書
会社名伸光ゴム株式会社
(1)自 昭和62年9月1日
至 昭和63年8月31日
<省略>
(2)自 昭和63年9月1日
至 平成元年8月31日
<省略>
(3)自 平成元年9月1日
至 平成2年8月31日
<省略>